糸の起源
前回はことばと糸の共通性についてお話しした。
生き物の中で衣服をまとうのは人間だけである。
その衣服はたいてい糸を撚り合わせて作る。
また生物の中でことばを操るのは人間だけである。
ここでもことばと糸の共通性を確認出来る。
ところで、衣服の起源はいつだろうか?
もちろん、人類が誕生した時は裸だった。
でも人類が「寒い」と思った時に身にまとうものの必要を感じたにちがいない。
ちょうど数万年前に小氷河期が訪れた。
その頃が衣服の起源ではないだろうか?
映画や漫画など古代人を視覚化した作品には、よくけものの皮をまとった人が登場するけれども、必ずしも獣皮だけが当時の衣服ではなかったようだ。
針と糸も数万年前の遺跡から発掘されている。
けものの皮は重い。
それに比べて植物繊維の糸を撚り合わせて作った衣服は軽い。
軽くて快適な植物製の衣服はこうして人類の好むところとなった。
今では植物繊維の糸から作った衣服は私たちの暮らしに欠かせない。
ことばが私たちに暮らしに欠かせないのと同じである。
ここにもことばと糸の共通性がある。
ただし、違うところもある。
糸の起源は考古学的研究によって大体わかったものの、ことばの起源はわからない。
糸はかたちのある「もの」だけれど、ことばはかたちもなく目にも見えない。
取り扱いは糸よりもはるかにむずかしい。
そもそもことばは人間が作ったものか神さまからのプレゼントかもわからない。
そんなものの起源を考えても詮無いことである。
むかしフランスの言語学会ではことばの起源を研究することを禁止したらしい。
「言葉の起源などに首を突っ込むと研究者人生を棒にふるとこになるよ」という親切心からの禁止令かもしれない。
それでも何にせよ起源の探求は魅力的だ。
とりわけ人類にとってなくてはならない言語の起源は。
この不思議な言語というものはどうして誕生したのだろう?
どうです、人生を棒にふる気はありませんか?
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