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2016年10月 1日 (土)

感覚と言語(その13)

「あまい」という語はとりあえず味覚形容詞と言ってよいけれど、「うまい」という形容詞はどうだろう?

たしかに料理を味わった時、「このパエリアはうまい」とか「このビザはまずい」とかいうけれども、これは味覚というよりも料理に対する総合的な評価をあらわす形容詞と考えた方がいい。

だから、「君は絵がうまいねえ」、「われながらまずい手を打ったものだ」という表現については、共感覚的比喩とか「転用」とは言わない。
人間のすべての経験領域にわたって適用できる、評価のための便利な形容詞だ。

ただ、「うまいーまずい」は男ことばという制約がある。
女の人が使っても法律違反になるわけではないが、あまり聞いたことがない。

女の人なら、「このケーキ、とってもおいしいわね」とか「あの店のパスタ、全然おいしくないわよ」という。
また、「あなた、ピアノお上手ね」、「わたし、歌が下手だからカラオケいやなの」という。

つまり、味覚世界では「うまい」が「おいしい」に変換されるわけだけれど、技量の分野では「あなた、絵がおいしいわね」とはいえない。

では、「おいしい」は味覚世界限定かと言えばそうでもない。
「そんなおいしい話、あるわけない」などという。

この場合は、味覚世界専用形容詞の転用と言っても許されるだろう。

整理してみよう。

「うまいーまずい」は、味覚に関しても技量に関しても用いることができる。
しかし、「おいしいーおいしくない」は技量に対しては使えない。
逆に「上手ー下手」は、味覚に関しては使えないが技量に対しては使用できる。
さらに、「おいしい」、「上手」は男女の別なく使えるが、「うまい」は基本的に男しか使わない。

整理してみてわかるように、「うまいーまずい」は汎用性が高い。
なのに、どうして性的制約があるのだろう?

ところで、辞書によれば「おいしい」は古語「いしい」に接頭辞「お」がついた形だという。
もともと上品な語なので、女性が使いやすいのはよくわかる。

そして、古語「いしい」はさらに古語の「いし」の口語形だという。
「いし」の意味は「よい、好ましい、巧みである、けなげである、味がよい」などとある。

だとすれば、「あなた、ピアノとってもおいしいわね」といってもおかしくないことになる。
しかし幸か不幸か、現代には「味がよい」という意味しか伝わらなかった。
ことばの運命、ということをつくづく考えさせられる。

ところで、「じょうずーへた」は漢字表記では「上手ー下手」である。
「下手」が表記と音に何の関係もない熟字訓であることはすぐにわかる。

しかし、「上手」はどうなのだろう?
「じょう」が「上」の字音であることはたしかだが、これは漢語ではないような気がする。
「じょうず」の「じょう」が「上」の字音と一致したのは、偶然のことだったのかもしれない。

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