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2016年2月 6日 (土)

上と下(その7)

手に持ったリンゴの手を離すと、万有引力の法則に従ってリンゴは地面に落ちる。
漢語を用いるなら、「リンゴが落下する」という。

日本語では、「落下」は「らっか」と発音する。

この語の文字を上下入れ替えると「下落」という、これまたよく似た意味の漢語が出来上がる。
「下落」は「からく」とは読まず、「げらく」と発音する。

「か」と「げ」の使い分けについて前回首をひねったのだけれど、この例でも考え込まざるを得ない。

「下」の文字が下に来れば、「か」と読むのかと言えばそうではない。
「上下」は「じょうげ」と読む。

「下」の文字が上に来れば、「げ」と読むのかと言えばそうではない。
「下流」は「かりゅう」と読む。

本当に日本列島において、呉音と漢音の使い分けはどうなっているのだろう?
だれが決めるのだろう?
言い出した者勝ちなのだろうか?

漢語には「落下」と「下落」、「会社」と「社会」のように文字を上下入れ替えても成立する語が少なくない。
その場合、「か」と「げ」のように読みが変わる例はほかにもあるのだろうか?

それはさておき、「落下」と「下落」は文字を上下入れ替えただけだけれども性質が異なる。

落下を引き起こす要因は地球の重力である。
下落を引き起こす要因は人間の思惑である。

「落下」にせよ「下落」にせよ、和語では「落ちる」という語を用いるしかない。
残念ながら「落ちる」では、「落下」と「下落」の性質の違いを分析することができない。

のみならず、漢字を用いれば「おちる」を「落ちる」、「墜ちる」、「堕ちる」など語に含まれる重層的な意味を適切に分節することができる。

くやしいけれど、日本語は漢字、漢語の助けを借りなければまともに機能しないのかもしれない。

さて、「落下」の反対語は「上昇」である。
おもしろいことに、「下落」の反対語も「上昇」である。

上に述べたように「落下」と「下落」は性質が異なるのに、その反対語は「上昇」一語ですませているのだ。
これまたその理由を追究したいところだけれども、残念ながら時間がないので先に進もう。

和語では、「おちる」の反対語は「のぼる」であり「あがる」である。
これまた、漢字を借りて「上る」、「昇る」と書き分けられる。

さらに「登る」とも書くけれども、これは「おちる」ではなく「おりる」の反対語だ。

漢字とは違って、和語の「のぼる」は意味のすそ野がはるかに広い。
「おちる」も同様である。

上では和語の意味文節機能の貧弱さにくやし涙を流した。
しかし考えてみれば、一語で広い意味をカバーできるということは和語の包容力の大きさを示していることかもしれない。
ものは考えようである。

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