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2014年5月 2日 (金)

木と樹

野原に木が一本立っている。
そのさまを素直にかたどったのが「木」という漢字だ。
その「木」がたくさん生い茂って「林」になる。
さらにたくさん生い茂って「森」になる。
この一連の変化を見ているだけで、漢字が素朴な象形文字であることをしみじみと納得できる。
しかし、これほど素直でない作りの漢字もある。
たとえば「木」のほかに「樹」という文字がある。
はじめに「木」という文字が生まれ、そのあと「樹」という漢字が成立したという前後関係は容易に想像できる。
問題は「木」のほかになぜことさら「樹」という文字が必要だったのか、ということだ。
「木」は自然状態の木だけでなく、材として加工され机やお椀に姿を変えたものも含んでいる。
これに対して「樹」は「立っている」という存在様式を強調した文字である。
という違いがあるのはわかるけれども、そもそも「木」という文字自体立っている姿をあらわしたものだから、わざわざ画数が多く難しい「樹」を新たに作る必要はなかったような気がする。
「樹」を考案した人に詰め寄って問いただしたいところだが、今となってはそれもかなわない。
ともあれ「木」のほかに「樹」という文字が生まれ、その使い分けの基準がはっきりしないまま「樹木」という熟語が成立した。
「山」一般を改まって「山岳」と言い、「川」一般を「河川」というように「木」一般のことを「樹木」という。
これはこれで便利な語なので、日本語の世界でもわりによく使われている。
たとえば、農学部林学科の新入生が山に連行されて「この木何の木?」と木の種類をおぼえさせられる授業を「樹木識別実習」という。
たんに「木」というよりも「樹木」という語を使ったほうが学術的に聞こえて科目名としてすわりがいい。
このように「樹」という文字の必要性にはいささか疑問符が付くけれど、人名の世界では「木」をさしおいて「樹」のほうがよく用いられている。
「春樹」くんや「茂樹」さんや「美樹」ちゃんという名前はわりによく見かける。
内田樹さんのように「樹」一字の名前もそれほど珍しくない。
この場合は「たつる」と読ませることが多いようだ。
空に向かって真っ直ぐに立つ、伸びるというイメージが好まれるのだろう。

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