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2014年4月 4日 (金)

丘と岡

前回もお話ししたように、川は山中の谷を下って広々とした野や原に躍り出ておだやかになる。

ただ野といってもまっ平らな平野というわけではない。
所どころ、山とは言えないほどの小高い地面の盛り上がりがある。

わたしたちはそれを「おか」と呼んでいる。
川は左右にそんな「おか」を眺めながら海へと流れてゆく。

「おか」には「岡」または「丘」という文字が当てられている。

辞書をひもとく限り、「岡」と「丘」には意味のちがいはなさそうだ。
例の漢字インストラクターは、「丘」と「岡」を示してどのような説明をしたのだろう?

ともあれ、漢字講習会に参加した古代の日本人は「おか」という和語に当たる文字として「丘」を選択した。
だから、漢字字典には「岡」の訓読みが示されていない。

意味にはほとんど違いがないけれど、なぜか日本語の世界では「丘」は普通名詞として「岡」は固有名詞として比較的はっきり使い分けられている。

普通名詞としては、もっぱら「丘」が活躍している。
「すみれの花咲く丘」であって、「すみれの花咲く岡」では感じが出ない。
熟語でも「丘陵」や「砂丘」など「丘」が用いられている。

しかし日本人の姓の世界では圧倒的に「岡」が多い。
岡田さん、岡本さん、西岡さん…。
丘田さん、西丘さんもいるかもしれないけれど、私はいままで出会ったことがない。

どうしてこんな奇妙な役割分担が出来上がったのだろう?
字義にほとんど違いがなく和語の「おか」に対して「丘」を選択したのなら、姓だって「丘」ひとつですむはずだ。
「丘田」さんでも「西丘」さんでもいいはずなのに、どうしてわざわざ「岡」を使うようになったのだろう?

人名をテーマにした本は多いけれど、私のこんな素朴な疑問に答えてくれる本は見当たらない。

ところで「山岳」や「河川」や「湖沼」という熟語があるのなら、丘陵全般を指して「岡丘」または「丘岡」という語があっていい。
しかし、ない。

なぜだろう?
山や川や池に比べて、取るに足らぬ景観要素と思われているのだろうか?
何だか「丘、岡」がかわいそうである。

しかし、考えてみれば「おか」には海に対して陸地全般という意味もある。
「おかに上がったかっぱ」という言い方もある。

漢字から和語の世界に戻ってみれば、「おか」には山や川や湖などとの比較にこだわらないおおらかさがある。

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