« 「やま」と「さん」(その3) | トップページ | 山と川 »

2014年3月17日 (月)

川と河

山があれば、谷がある。
山に降った雨は谷や沢に集まり、川となって流れ出す。

その川は野をうるおし原をうるおし里をうるおし村をはぐくみ、流れ流れて最後は海に注ぎこむ。

「うさぎ追いしかの山、小鮒釣りしかの川…」
川はわたしたちにとって、山とともにもっとも親しみ深い景観要素のひとつである。

その川にも「川」のほかに「河」という漢字が用いられる。
山が「山」のほかに「岳」という文字を持つのとよく似ている。

しかし、違いもある。
「山」と「岳」は異なる訓読みを持つのに対して、「川」と「河」は同じひとつの訓読みしかない。

このところよく登場する漢字講習会の場面。
漢字とともにやってきた例のインストラクターは、「川」と「河」というふたつの漢字を示して次のように言ったかもしれない。

「河」という文字は大きな川という意味を持っていますので、日本語を表記する際には適切に使い分けましょう。

そう言われてもねえ、と日本語話者は困惑したことだろう。
これまで川の大小にはこだわらず、みなひっくるめて「かわ」の一語で片づけてきたからだ。

ここが山とちがうところ。

わたしたちは漢字伝来以前から、平凡な山は「やま」と呼び、高く険しい山は「たけ」と呼んでいたから「山」と「岳」というふたつの漢字が導入された時にもうまく割り当てることができた。

「河」と「川」の場合は、このように在来の和語とうまく対応させることができなかったのだ。

だから本邦では、「河」はふつう「大河」とか「河口」とか「河川」のように熟語のかたちでしか用いられない。
「深い河」のように単独で用いられることもないではないが、特別な文学的効果を狙った場合などに限られる。

日本列島では、川は大河であろうとちっぽけなせせらぎであろうとみな「川」なのだ。

だから、利根川や信濃川のようなりっぱな大河でも「利根河」や「信濃河」と表記したりはしない。

漢字のふるさと中国は大きく広い。
黄河や長江など、わたしたちが思い浮かべる「かわ」の概念をはるかに超えている。
そのような存在のために、「川」のほか「河」や「江」という文字を別に用意する気持ちはよく理解できる。

幸か不幸か日本列島にはそんなけた外れの川がなかった。
だから人々は大きな川も小さな川もみな「かわ」と呼んでわけ隔てなくかかわることができた。
そして、表記するときもまた「川」のひと文字で通すことができたのだ。

|

« 「やま」と「さん」(その3) | トップページ | 山と川 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「やま」と「さん」(その3) | トップページ | 山と川 »