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2013年8月31日 (土)

「ちち」と「あに」

ここしばらく、親と子、祖父と孫と言うタテの親族関係をあらわすことばをめぐって愚考を重ねてきた。
ついで、というわけでもないがヨコつまり兄弟姉妹関係にも目を向けてみたい。

ここでも、「ちち」、「おとうさん」、「おやじ」という男親をあらわす3種の語に準拠しよう。

まず、「あに」が「ちち」に対応し、「おにいさん」が「おとうさん」に対応する。
「おやじ」に対応する呼称は「あにき」だろうか?

弟もそこそこ年をとってくると、面と向かって「おにいさん」と呼ぶのは何となく子供っぽくって気恥ずかしい。
そこで「あにき」を用いる。

「あにき、ちょっと相談があるんだが…」

「おとうさん」と「おやじ」は語形がまるで違うけれども、「あに」と「あにき」はほぼ同じである。

これは私の推理だが、もと兄をあらわす語の体系の中で「おやじ」に対応する位置は空白だった。
しかしこれでは何かと不便なので、「あに」を流用して「あにき」としたのではないか?

このように、若干のずれはあるにせよ父をあらわす語の体系と兄をあらわす語の体系はうまく対応している。
「ちち」が呼びかけ語としては使えないと言うルールは、「あに」にも当てはまる。

また、女親をあらわす語の体系と姉をあらわす語の体系との対応関係も男の場合とまったく同じである。

兄弟姉妹関係をあらわす親族呼称の体系には「祖父」のような漢語は登場しない。
兄弟や姉妹という漢語は親族呼称ではなく概念語にすぎない。

このような現象を根拠として、親族関係の緊密度は親子、兄弟姉妹、祖父母ー孫関係の順になると結論づけることもできる。

ところで発話者よりも年少の者、つまり弟や妹に関してはきれいな対応関係が成り立たない。

「ちち」や「はは」、そして「あに」や「あね」に対応するのが「おとうと」、「いもうと」であることはわかる。
しかし年少者の場合、「おとうさん」や「おにいさん」あるいは「おやじ」や「あにき」に対応する語がない。

つまり、呼びかけのことばがない。
「おい、おとうと、おまえ生意気だぞ!」とは言えないのだ。

名前や愛称で呼びかけるしかない。
親が子に向かって「おい、むすこ、おまえ生意気だぞ!」と言えないのと同断である。

人はひとりひとり固有の名を持っている。
しかし面と向かってその名で呼びかけることのできる場面には制限がある。

年少者に対しては名で呼びかけても差し支えない。
しかし父や兄のような年長者に対して直接名で呼びかけると緊張が走る。

親族呼称は、その緊張を避けるためのクッションでもある。

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