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2013年6月21日 (金)

固有名詞と意味(その2)

かねがね行ってみたいと思いながらいまだに果たせないでいる場所のひとつに「尾瀬」がある。
あこがれの場所と言っていい。

ところで、この「おぜ」という地名はどのように成立したのだろうか?

軽井沢の近くに「小瀬温泉」というところがある。
ひょっとして「おぜ」はこの「こぜ」が転化したのかもしれない。

湿原には小さな瀬がたくさんあるから、この考えはあながち的外れではないと思える。
もしそうだとするなら、「おぜ」は前回登場した「すま」とはちがってりっぱに意味を有していると言える。

「しおや」が製塩小屋のある場所、「たるみ」が水のしたたり落ちる場所という意味を持つのと同じく、「おぜ」は「小さな瀬のある場所」という意味を持っている。

つたない地名考証はさておき…。

人が「おぜ」という音連続を言ったり聞いたりする時には、このような原義はほとんど意識されない。
思い浮かぶのは、中田喜直さん作曲の「夏の思い出」のメロディ、どこまでも続く湿原にミズバショウ、澄みきった青い空、白く輝く夏雲である。

これらは「意味」とは言えない。
「おぜ」という2音節の音連続が喚起する美しい音響的、映像的連想である。

意味と連想はちがう。
辞書で「おぜ」を引いても「小瀬」という氏族名、「尾瀬」という地名しか出てこない。

ただし、意味と連想はまったく無関係ではないかもしれない。

たとえば、「せせらぎ」という普通名詞の成立について考えてみたい。

「せせらぎ」という4音節の音連続が「せせらぎ」という意味と結びつくにあたって何らかの連想のメカニズムが働いたという可能性もあながち否定できない。

さ行音が喚起するさわやかな感覚。
このことについては以前お話ししたことがある。
その感覚が、人を「せせらぎ」の意味に導いてゆく…。

そう考えれば、語と意味の結びつきは恣意的、という言語学のテーゼもいささかあやしくなってくる。

尾瀬の湿原には小さなせせらぎが幾筋も流れている。
耳をすませば、清冽な水音が聞こえてくる。

そういえばもうすぐミズバショウの季節である。

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