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2011年8月 1日 (月)

神さまの名前(その3)

前回は、日本語の「神」という語を見つめなおしてみた。

こうして漢字表記をしてみると、その意味はあくまでも宗教的なものに限られる。

しかし、「かみ」とかな表記にしたとたん、この語が発する意味は一気に拡大する。

「かみ」は「神」であるほか、「紙」であり「髪」であり「上」でもある。

日本語に用いられる言語音の種類は世界最少の部類に属する。
だから、どうしても同音異義語が多くなる。

ただし、同音異義語といってもその成り立ちはふたつある。
まったく意味の異なる語が偶然の一致で同音になった場合と共通の原義から派生した場合である。

たとえば、「書く」と「描く」と「掻く」。
「映る」と「移る」と「写る」、そして風邪が「うつる」。

これらは以前このブログでも少しお話ししたけれど、いずれも共通の原義から派生したことばだ。

和語の「かみ」もきっと同じだと思う。
その原義は「上位に存在するもの、ありがたいもの」である。
「紙」は上にあるもではないかもしれないが、文字言語にとってなくてはならぬありがたいものである。

余談だけれど、語の派生というのはとどまるところを知らないもののようだ。

「うちのかみさんが…」というのは刑事コロンボの口ぐせだった。
派生はさらに転々として、果ては「人の取り巻きになって遊里に遊ぶ者」という意味まで獲得してしまった。

ところで、漢字表記の「神」に対応する英語は「GOD」だろうか?

英語はキリスト教文化の中で成長した言語だけれど、「GOD」はキリスト教の神だけでなく多神教の神々をもカバーしているらしい。
この点、「神」との対応関係は上々だ。

してみると、古事記に登場する神さまたちも英語に翻訳される時は「GODS」となるのだろうか?
ちょっと似合わないような気がする…。

英語は日本語よりはるかに音節の種類が多いから、「紙」も「髪」も「上」も「神」とはまったく別の語であらわされる。

つまり英語では、「神」は「紙」や「髪」や「上」からはっきり区別される。
唯一絶対の存在にふさわしいくっきりとした意味的輪郭を言語の世界でも確立している。

宗教としてはまことにりっぱなあり方である。

しかし、「紙」や「髪」や「上」との境界もさだかならぬ曖昧模糊とした日本の神さまにも、これはこれで温かく包みこまれるような安堵感をおぼえる。

とりあえず日本語と英語を比べてみたけれど、他の言語ではどうなっているのだろう?

たとえば、中国語ではどうか?
仏教圏のタイ語ではどうか?
英語圏よりもさらに徹底した一神教を持つアラビア語ではどうか?

それらの言語圏では、語の転用や派生はどのようになっているのだろう?

なんといっても「かみ」や「GOD」は人間にとってもっとも重要なことばのひとつだから、これをキーワードとして諸言語を比較対照してみることで、思いがけぬ発見があるかもしれない。

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