« 「おかあさん」の誕生 | トップページ | 名前と文字 »

2011年4月11日 (月)

名前の威力

話しことばの世界では、フルネームを言ったり聞いたりする機会はめったにない。

役所や病院で順番を待っている時くらいだろうか?
「山本太郎さん、6番にお入りください」

ふつうは姓だけである。
「山本さん、会議はじまりますよ!」

「山本太郎さん、あした空いてます?」
なんてフルネームで呼ばれるとぎょっとする。

家庭でフルネームで呼ばれることは100%ない。

新婚のころは「太郎さん、早く帰ってきてね」と名前で呼んでいたお嫁さんも、子どもが生まれると親族呼称を使いはじめる。
「お父さん、飲み過ぎちゃだめよ。」

まして子どもから名前で呼ばれたことは一度もない。

ただし、英語圏では妻が夫を詰問するときフルネームで呼ぶことはあるとのことだ。
「エディ・バレット、あなたうそ言ってるでしょ!」(シャープ電子辞書の用例)

だから、話しことばが交わされる対面状況でフルネームが用いられるのは異常事態と言っていい。
前々回もお話ししたように子が親に向かってフルネームで呼ぶこともないではないが、それは親子の縁を切る時だ。

名は自分の分身あるいは自分そのもの、という観念は世界中に広がっている。

だから、人は容易に本名を明かさない。
本名を避けて、ニックネームで呼びあう。

相手から面と向かってフルネームを名指しされることは、自分の存在をわしづかみにされるのと同じことである。
いきなりフルネームで呼ばれた時、ぎょっとするのはそのためだ。

上の例で妻が夫を詰問するときにフルネームを用いるというのも、このことを考えるとよく理解できる。
夫の首根っこを押さえてやる、という意識がフルネームで呼ばせる。

フルネームという固有名詞が存在を特定する作用はよきにつけ悪しきにつけすさまじい。
うかつに口にすることはできない。

|

« 「おかあさん」の誕生 | トップページ | 名前と文字 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「おかあさん」の誕生 | トップページ | 名前と文字 »