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2011年2月12日 (土)

土地の名 人の名(その11)

前回の仮説に従うなら、人はまず人に先立って土地に名を与えた。

それも最初は素朴な名付けだったにちがいない。

遠くにそびえる高い山だから「高山」。
近くにある小さな川だから「小川」。
ライン川の「ライン」なんて、なんの形容詞もつかずただ「川」という意味だそうだ。

もちろん、高い山や小さな川はかれらを取り巻く環境の中にいくらも存在しただろうから、その特徴をとらえて命名は徐々に精緻化していく。

年中雪に覆われているから「白山」。
赤土の山肌に開かれた道には「赤坂」。
以下、同断。

ことばによる世界のオリエンテーションは、このようにしておおよそ整った。
しかるのち、はじめて人に目が向けられる。

向こうの高い山のふもとに住む人々は「高山」さんの一族である。
こちらの小さな川のほとりに住む人々は「小川」さん一族である。

まず部族、つまりムレを対象に名が与えられる。
個人名はまだない。
漱石の猫と同じレベルである。

以上のなりゆきは日本語の世界でのことだけれど、他の言語圏でもだいたい似かよった経緯をたどった。

そこで、今ひとつ浮かぶ疑問は場所や人をあらわす代名詞のことである。

「ここ」、「そこ」、「あそこ」など場所を指示する代名詞。
「おれ」、「おまえ」、「あいつ」などの人称代名詞。

代名詞は、普通名詞や固有名詞に代わってその役目を果たす、ということから名詞の中でも一段低く見られているところがある。

しかし、その形態や機能からして一般の名詞よりも早く成立したと思う。
普通名詞や固有名詞よりもえらいお兄さん格に当たるような気がする。

「獲物はどこにいる?」と聞かれた原始人は、「でこぼこ山の南」なんて固有名詞を口にするよりも先に、近くの里山のひとつを指差しつつ「あっち」と答えたにちがいない。
それで十分用が足りたのだ。

長い長い代名詞の時代を過ごしてのち、わたしたちはようやく普通名詞を組み合わせて土地を特定する方法を発見した。
固有名詞はこのようにして生まれた。

代名詞から始まり普通名詞を経て固有名詞へ。
これが、一行であらわす名詞の進化史である。

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