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2011年1月23日 (日)

土地の名 人の名(その8)

土地と人では、どちらがえらい?

「名」のキャッチボールをめぐってこれまで詮ない問を重ねてきたけれど、「土地のほうがえらい」ということでどうやら決着がついた。

そこで今度は肝心のボールのほうに注目してみたい。
たとえば、「ワシントン」の場合。

首都ワシントンの名は、いうまでもなく初代大統領ワシントンにちなんでいる。
そのワシントン一族の姓は、発祥の地であるイギリスのワシントン郷から来ている。
そして、その地名のいわれは「ワサ族の囲い地」ということだ。

かくのごとく、土地と人の間で「名」のキャッチボールが繰り返されてきた。

では、さらにさかのぼって「ワサ」という部族名の由来は何か?
ここまで来ると、さすがに曖昧模糊としてくる。

しかし、いつかだれかが名付けたのだからそれなりの意味はあったにちがいない。
わからないなりに、意味の源流に迫っている感覚はある。

「パリ」という地名もガリア時代の「パリジイ族」という部族名に由来している。
そして、こちらのほうは「乱暴者、田舎者」という意味がわかっている(『地名の世界地図』文春新書から)。

「パリ」にせよ「ワシントン」にせよ、今となってはその意味や来歴はどうでもいい。
地名なのだから、その都市を特定できればそれでいい。

しかし、その固有名詞の根底は普通名詞がしっかり支えている。

ただし、その普通名詞の意味と地名の関係は時代とともに変遷する。
今日では、「パリ」のイメージと「乱暴者、田舎者」とはまったく結びつかない。

古典的な言語観では、ことばはものごとの「名前」である。
箱の外側に貼りつけたラベルと言ってもいい。

普通名詞の場合、ラベルと箱の中身は一心同体である。
「ネコ」というラベルを貼った箱の中には、あの動物以外はいることができない。
「イヌ」や「ブタ」との入れ替えは不可である。

しかし、固有名詞の場合、時と場合に応じて入れ替え可能なのだ。

かつて「パリ」というラベルの箱には「乱暴者、田舎者」が入っていた。
それが、今では「花の都」に入れ替わっている。

「ワシントン」というラベルの箱の中には、かつて「ワサ族」が棲んでいた。
いまかれらは追放され、かわってホワイトハウスやオバマ大統領のイメージがその場を占めている。

普通名詞の場合、ラベルは箱の中身を指している。

しかし、固有名詞の場合、ラベルは箱そのものを指している。
中身は何でもいいのだ。

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