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2009年12月 6日 (日)

「まな」と「かな」(その3)

はるかなむかし、おはぎちゃんが漢字伝来に立ち会って以来、日本語話者の心には「漢字=まな」の意識が深く刷り込まれた。

これは、わたしたちのDNAみたいなものである。

少し前に登場した居酒屋のおやじが「有難う御座居ます」という貼紙を書いたのも、そのDNAのなせるわざである。

そこまで漢字を使いたいなら、いっそのこと「有難御座居満寿」とでも表記するほうがいい。
そのほうがよほど人目を引く効果はあると思うのだが、どうだろう?

「漢字=まな」という文字意識は、「可能なかぎり漢字で表記しなければ…」というプレッシャーとなって日本語の書き手にのしかかる。

くだんのおやじがそのプレッシャーを意識していたかどうかはわからない。
たとえ無意識であったとしても、わたしたちのDNAが自然に書き手を漢字の多用に向かわせる。

つまり、放っておくと際限なく漢字の比率が高まるのが、漢字かなまじりを基本とする日本語表記の宿命なのだ。

そして、言語処理のIT化がこの傾向に拍車をかけた。

日本語ワープロソフトのメーカーは、その性能をアピールするために競って漢字変換機能を強化する。
そのために、一生使わないであろう漢字もどっさり辞書に搭載する。
文字変換も漢字表記を優先する。

たとえば、いま私が使っているこのワープロでは「HAYARU」と入力すると第1候補に「流行る」が表示される。

いずれお話しすることになると思うけれど、「流行る」は日本語表記としてエレガントではない。
だから、私はもういちどキーをたたいて「はやる」を表示させなくてはならない。

本当にもう余分な手間をかけさせるのだから。

このワープロソフトとも長いつきあいである。
ワープロには学習機能があるはずだから、いいかげん「はやる」が第1候補になってもいいと思うのだが、いまだに漢字表記が一番に出る。
もう、このわからず屋!

ついつい、興奮してしまった。
きっと、このワープロソフトも「漢字=まな」の信奉者なのだろう。

今日では、ワープロが標準の筆記具である。

何も考えず、キーボードにどんどんローマ字入力していけば勝手に漢字かなまじり文を作成してくれるのだから、これほどらくちんなことはない。

だからプロの文筆家でもないかぎり、「この語は漢字表記にすべきか、それともかな表記にすべきか、どちらがふさわしいだろう?」ということに神経を使わなくなる。

要するに、表記に関してはワープロまかせになるのですね。
そして、上でお話ししたようにワープロは「漢字=まな」の信奉者ときているのだから、出来上がったテキストが漢字だらけになるのは自然の勢いだ。

今日、表記に関しては完全にワープロに主導権を握られていると言っていい。

このところ、常用漢字に編入される漢字が増加する傾向にある。
このことは、漢字に対するニーズ(依存?)が高まっていることの反映だ。

この傾向を漢字の復権と考える人もいる。

しかし、この「漢字の復権」なるものは実は「書き手の失権」なのだ。

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