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2009年8月31日 (月)

文字の裏わざ

前回、柳田国男さんの名前の読みについてお話をしたことで、以前このブログでよく似た話題を取り上げたことを思い出した。
タイトルは「永遠の謎」というのだった。

もう数年前のことでおぼえておられる方もいないと思うので、再度ご紹介しますね。

あのとき登場したのは、「小畑優」さんだった。
とりたてて珍しい名前ではない。

さて、常識的に考えてこの人の氏名は姓の部分で3通り、名の部分でも3通りくらいの読みがある。

というわけで、フルネームでは少なくともあわせて9通りくらいの読みが可能だ。

その中でどれが「正しい」かは、小畑優さんその人にしかわからない。
ご当人が亡くなってしまえば、この問題は「永遠の謎」としてこの世に残される。
日本語における漢字には、そんな性質がある。

ご案内の通り、日本語における漢字には音読みと訓読みがある。
そして、「関西」のように音読みの中でも複数の読みが存在する。
のみならず、熟字訓のようなお遊びも加わる。

これだけでも大変なのに、名前の漢字表記に至ってはもう何でもありである。
無政府状態といってもいいし、自由の花園といってもいい。

「あの、おばたさん…」
「すいません、私、こばたなんですけど」
「あ、失礼しました。お名前のほうはまさるさんでいいんですか?」
「いえ、まさし、と読んでもらってます」
「へえー、そんな読みもあるんですか…」

といった事態になる。

要するに、言ったもん勝ちの世界なのである。
「陽菜」ちゃんを「はるな」、「大翔」くんを「はると」と「読ませる」くらいは朝飯前である。

何しろ名前のことだから、他人には容喙することがかなわない。
上のほうで「3通りくらい」などとぼかした言いかたをしたのも、このことを警戒したからだ。

前回お話ししたように、「やなぎだ」か「やなぎた」かは各人の発音上の「くせ」に属する問題だ。

しかし、「おばた」と「こばた」はあくまでも別の名前である。
「くせ」の問題として逃げ切ることことはできない。
本当に頭が痛い。

だから、日本の書類の氏名欄には必ず「ふりがな」の部がある。
ふりがなは、この紛糾した事態を打開するためにわたしたちが発明した裏わざなのだ。

ふりがなは、ある系統に属する文字に対してまったく別系統の文字によって注釈を併記する、という驚くべき操作である。

わたしたちはふりがなの使用に慣れているのであまり感じることはないけれども、このよう特異な手法は世界中でも日本語表記にしかみられない。

人間、とことん追い詰められれば何だって発明するのである。

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